ブエノスアイレス

画像はこちら (ちょっと余談)




私がレスリー・チャンと出会ったのは、この『ブエノスアイレス』という映画でした。

この映画は、私が短大生の時に日本で上演されていて、その当時、

ホモが題材になっている映画に必ず飛びついていた私は、

この映画にも凄く関心を持っていました。

でも出演しているのがアジア人だということで、いまいち盛り上がりに欠け、

結局見に行かずじまいで終わりました。

そして数年経ち、職場で、同僚に薦められた時も、

まだ見るのに二の足を踏んでいました。

さらに「賞を取った有名な映画らしい」と言う事で、

母がレンタルショップで借りてきた時も、ギリギリまで手に取りませんでした。

ひょっとしたら何となく分かっていたのかもしれません。

『モーリス』や『太陽と月に背いて』と比べて、これはあまりに重すぎる作品だと。

短大生の時では、とても受け止められなかったと思います。

現にそれから数年経った今見ても、

感想すら、見てから一ヶ月以上経たないと書けないような有様でした。

見るたびに苦しくて、せつなくて‥。

今までファッションやノリで、ホモ映画を見てきた私にとって、

この映画は頭から真っ二つに切り込まれた気がしました。

言葉になんか到底ならなくて、出るのはため息と涙。

やりきれない、それすらも言葉にまとめられないほどの混乱。

ブエノスアイレスは、私の映画を見る目をバッサリと変えてくれました。

私はそれまで、まともにアジア映画を見た事が一度も有りませんでした。

アジアの映画と言えば、暗くて地味で、ワケが分からない、

それが今まで持っていた印象でした。

ブエノスアイレスも最初、ウィンとファイの、

どちらがどちらか見分けもつかないような状態だったのですが、

見ていくうちにウィンばかりを目で追うように‥。

彼の喜びが、やり場のない憤りが、悲しみが、切なさが、

どんどん流れ込んできて、やがて私は、

自分がちゃんと息を出来ているのかどうかさえ分からなくなりました。

どうしてこんなにもツラいんだろう‥。

見終わった途端、私が思った事は

「今すぐブエノスアイレスに行って、ウィンを強く強く抱きしめてあげなくては!

でないと彼は死んでしまう!」でした。

バカみたいでしょう?

でも私は本当にオロオロしてしまったのです。

それだけウィンという人物は、私の中でホンモノでした。

台北に行って、電車に乗ってスッキリした顔で微笑んでいるファイを、

ぶん殴ってやろうかとも思いました。

首に縄をつけて、無理矢理にでもウィンの元に届けてやろうかとも。

監督はファイの立場に立って(主人公なんですから当然ですが)

あの映画を作られたと思いますが、

私はずっとウィンの立場に立って、あの映画を体験していました。

どうして置いていくの?!

旅立つなら何で置手紙くらい、書いておいてくれないの?

どうせなら家具や毛布なんか、処分しておいてくれたらいいのに!!

パスポートを返せと言っても返さなかったくせに、別れようとしなかったくせに、

自分が吹っ切ったからって、どうしてそんな勝手な仕打ちが出来るの!!

ファイは最初、父親の元からウィンと逃げ、

今、ウィンから父親の元に逃げ帰ったのだ、と私の目には映りました。

ファイのウィンに対する優しさも、私には偽善としか思えませんでした。

ただの生活の張り、自分の存在価値を認めてくれる人間、

自分に生きる意味を与えてくれる人間‥。

あの映画で、

ウィンだけがどうしようもなく救えない人間のように描かれていますが、

ファイだって救われない人間なのです。

彼はずっとあの調子で、おせっかいのような愛し方しか出来ないのでしょう。

不満も普段は口に出さず、いきなり卑怯な手段を使って復讐を果たす。

ウィンがファイの帰りを待っている間、

電話でちょっと声を聞いただけの張の事が気になって仕方なくて、

グルグルそればかり考えて、

帰ってきたファイを質問責めにしてしまう‥

ファイはそれに答えないくせに、

ウィンが不安を紛らわす為に外出するのを止めさせたがる。

それを勝手と言わずして何と言う!!

ウィンばかりが我儘で、ファイが一方的に被害を受けているように見えますが、

そんな事ない!!

ウィンはうまくやっていこうとしてた。

確かにファイに甘えて、

「これくらいなら許してくれるかな」

ってズルイ事も考えたけど、でも、ウィンの心はいつもファイとあった。

でもファイは違った。

父親とうまくいかなくなるとウィンと、

ウィンと駄目になったらまた父親の元に‥。

ウィンにはいつもいつもいつもいつもファイしかいなかったのに!!

それをあんな風に捨てていくなんて許せない。

ウィンが立ち直れるかどうか、私は難しいのではないかと思います。

あのまま抜け殻のように生きるウィン‥やがてパスポートの期限が切れて、

香港に強制送還されて、そこでまたファイに出会って‥

2人がやり直すのかも知れない。

最初、私はその結末を望んでいました。

それこそがウィンの望みだと思ったし‥。

でも今は違う。

ウィン、ファイとはもう終わった方がいいよ。

ウィンはかぶりを振るのでしょうか?

この映画を見た後、

私の中で、何度も何度も違うエンディングにたどり着いていては、

そのたびに考え込まされました。

ウィンが幸せになってくれますように‥。

自殺とかしてませんように‥。

(またウィンを実在する人みたいに思ってるし)

病気ですね、全く。

予告編見ただけで、泣いてるのって私だけじゃないですかね?

でも本当にやりきれないですよ、あの終わり方。

台北で「夢から覚めた気がした」ってファイが言ってますが、

それってウィンとの過去が悪い夢だったとでも言う気なんでしょうか。

一緒に恋愛してたなら、一緒に目を覚ませよ!

目を覚ました時、隣に誰もいない空虚さ、

自分だけが夢を見続けていた事実に愕然とするのはどんなにツライか。

自分だけが目覚めたと思うなら、相手を揺さぶるくらいしろ!

ファイの場合、手紙も書かず、連絡もせず、家具もそのままに、

パスポートを手渡す事もしないで放っておく事が、

ウィンを起こす手段だったのか。

何でそんな酷い事が出来るんだよ!

ファイ、あんたなんか嫌いだ。

大っキライだ!!


レスリー・チャンと言う人

この映画を見て、私はレスリーと言う人にとても興味を持ちました。

そして彼を知れば知るほど、「違う!」という思いが強くなっていきました。

「この人はウィンじゃない!!」

そう、ウィンはブエノスアイレスの中にしか存在していなかったのです。

他の映画でレスリーが演じていたのは、

ウィンではなく、レスリー本人ですらなく、

それぞれがみんな違う人でした。

それは「ウィンは、もうどこにもいないんだ」と思わされると同時に、

レスリーという人の凄さを思い知らされる結果となりました。

ちょっと暴言になりますが、ファイという人物は、

別にトニー・レオン氏でなくても出来たのではないか、と思うのです。

現にトニーは、他の映画でもそのままトニーで(それが普通だと思いますが)、

全然別人ではなかった。

でもウィンは、レスリー以外に有り得なかったと思うんです。

最初、アンディ・ラウにウィンの話があったそうですが、

正直、アンディには荷が重かったのではないかと思います

(つーかタイプが違いすぎ)

ウィンの可憐さ、それでいて大胆な狡さ、艶やかで香るような色気、

思わず抱きしめて、そしてその瞬間に後悔してしまうようなまさに悪女!!

でも弱くて、寂しがりで甘えん坊で‥。

そんな彼の我儘なところも、自分だけに向けられるものと分かると、

それすら喜びになってしまうファイの気持ちが痛いほど分かってしまうのです。

あれほど魅力的なウィン。それを演じたレスリー。

私は本当に、この時代に生まれた良かったと思いました。

レスリーと同じ時を生きる。

名優の彼の作品を見て、いろいろ感じる事が出来るのがとても幸せです。

ブエノスアイレス、見る機会はあったのに、なかなか出会えなかった映画ですが、

それだけの時間をおいた価値は十分にありました。

本当に名作だよなぁ‥。


勝手な事ばかり書きました。

でも、あの映画を見た直後は、ウィンが不憫で、ファイが憎たらしくて、

あんな暴言しか出てこなかったんです。

実際、恋愛なんて、エゴで当然だとは思うんですがね‥。

いつも最後まで見ては、また幸せだった頃まで巻き戻してみたりして(悪あがき)




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